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受け継ぐもの、受け継がないもの

11 分前
読了時間: 3分

昨日、30年ほど前からあるじゃんに通ってくださっていた男性が、大学1年生の息子さんを連れてお店に来てくれました。


お父さんは、今も昔の6ミリのフックピアス、ボルトピアスを愛用してくださっている。

そして息子さんの胸元には、かつてお父さんが選んだネックレスがありました。

その日、お父さんは新しくリングを新調しようと、息子さんに「これどう?」と尋ねていました。


すると息子さんは、自然な口調で「いかしてるね」と。


その何気ないやり取りが、なんとも温かく、私の心に残りました。

大学1年生といえば、自分自身の価値観が少しずつ輪郭を持ちはじめる頃。

親とは違う時代に生まれ、違う音楽を聴き、違う景色を見て、違う感性を育てていく。

それでも、かつて父親が大切にしていたものを、自分の意思で身につけている。


私はその姿に、なんとも言えない美しさを感じました。


もちろん、親子の関係のすべてを知っているわけではありません。

けれど、父親の好きだったものを、息子が自分の感性で楽しんでいる。

そこには、親の価値観に従うのでも、反発するのでもない、ひとつの自由があるように思えました。


親子だからといって、同じ考え方で生きる必要はありません。



親は親、子は子。

それぞれが別の人格を持ち、別の人生を歩んでいく存在です。


それでも、相手の中にある素敵なものを見つけ、認め、自分の世界に取り入れることはできる。


それは、相手のすべてを肯定することとは違います。

違いを認めながら、好きなものは好きだと言えること。


私はそこに、とても成熟した人間関係の美しさを感じました。


思えば、私自身もそうでした。

父親が楽しそうにしていたバイクの世界。

その景色を、私も一度覗いてみたかった。


父親と同じ人間になりたかったわけではなく、父親が見ていた世界には、いったいどんな魅力があるのだろうという、子供ながらの好奇心があったのだと思います。

きっと、これが「影響を受ける」ということなのでしょう。

親の生き方をそのままなぞることではなく、親が楽しんでいた世界の一部分に、自分自身の心が反応すること。


そして、その世界に足を踏み入れたとき、そこから先はもう自分だけの物語が始まっていく。

私たちは、親といつまでもへその緒でつながっているわけではありません。


親の思想も、価値観も、人生そのものも、すべてを引き受ける必要はない。


けれど、親から受け取ったものの中に、自分にとっての宝物があってもいい。

それは親だけではなく、友人や恋人、旅先で出会った人、あるいは偶然目にした風景からも同じように受け取れるものなのだと思います。

そうして心が動いたものを、ひとつ、またひとつと集めていく。

誰かの好きだったものが、いつしか自分の好きなものになり、そこに自分だけの解釈や経験が重なっていく。 まるで、さまざまなスパイスを少しずつ集めながら、自分だけの味をつくっていくように。


そうやって私たちは、自分という人間の輪郭を少しずつ、くっきりと描いていくのかもしれません。


昨日、息子さんの胸元で輝いていたネックレス。


それはもう、お父さんのものではなく、息子さん自身が選んだ世界の一部になっていました。

30年前、ひとりの男性が気に入ってくれたアクセサリーが、時を越えて、また違う人生の中で輝いている。

物をつくる仕事をしていて、こんなに嬉しいことはありません。

受け継ぐということは、同じ人生を生きることではない。


誰かが大切にしていたものの中から、自分にとっての宝物を見つけること。

そして、それを自分らしく生かしていくこと。

昨日の親子の姿は、そんなことを私に教えてくれた気がしました。


 
 
 

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